時を刻む湖 岩波科学ライブラリー(中川毅著, 岩波書店)

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 福井県若狭町の景勝地・三方五湖のひとつ水月湖は山に囲まれ日ごろ平穏であるが、その底には長い歴史における地球科学イベントの履歴とそれに纏わる研究者達の情熱が息を潜めて隠れている。本書は、7万年前からの堆積物が1年ごとの縞々に積み重なった「年縞」の発見と、年縞が年代測定手法の基準として国際的に認められるまでの苦闘を描く。年縞の科学的意義を明快に解説する一方、研究チームひとりひとりの息遣いまで聞こえそうな臨場感溢れる研究記録となっており、科学本としては珍しく感動すら覚えた。本書を読んだあとはぜひ三方五湖にも足を運び、湖畔の博物館で実物の年縞を見ることもおすすめしたい。

 私は2020年の9月に三方湖のほとりにある年縞博物館を訪れた。写真は、そこで展示されている実際の年縞である。1年ごとに堆積される年縞を1枚ずつ数え、どうしても不明瞭な箇所は数学的な確率分布モデルの助けも借りながら、1万年前のイベントをたった10年程度の誤差で年代評価している。驚異的なことである。本書を手に取ったのは三方を訪れた直後であった。館内を貫くような長い長いケースに入った黄金色の年縞を思い出しては、そこに刻まれた地球の歴史をあまりにも丁寧な仕事で解読していった科学者たちの情熱に改めて感嘆してしまうのだ。

書誌情報

https://www.iwanami.co.jp/book/b265990.html