溶岩と生きる町 静岡県長泉町・清水町 #1

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 この日は天気予報が悪く、晴れていれば沼津市の香貫山に行ってみたかった。予報ほど悪くない天気だったが、実際に風雨が強くなる時間帯もあった。

 午後からは御殿場線に乗って長泉町の下土狩駅に来た。駅前には、かつてここに旧東海道本線(現御殿場線)の三島駅が置かれていたことを誇る案内板がある。駿河と伊豆の国境は地形などで明瞭に分かれるものではなく、長泉町は駿河国に属していたが隣の三島市は伊豆国に属していた。豆相鉄道(現在の伊豆箱根鉄道駿豆線)もここから発着し、ここは伊豆への玄関口となっていた場所だ。

 行政的な国境ではなく、自然地理的な意味で伊豆半島がどこから始まるかということになるともっと難しく思われる。神奈川県の山北町や松田町にかけて分布する足柄層群は、海底の堆積物が伊豆半島の衝突とともに本州側に押し付けられてできた付加体だというから、衝突の境界は箱根山を取り巻くようにあると考えられる。一方静岡県側では、富士山や愛鷹山から流れた溶岩が地表の大部分を覆っており、また河川由来の新しい堆積岩も多い。香貫山や本城山(清水町)など伊豆火山列由来の火成岩と、富士山が流した三島溶岩が極めて近接している。

 下土狩駅を出てすぐにある町の施設には伊豆半島ジオパークの長泉ビジターセンターがある。入館した左手には伊豆半島各地の岩石の標本が展示されている。館内の一角にはガイドブックにもほとんど載っていない展示もある。

 一般にジオパークの圏内では、特徴的な地質遺産や地質と関連した人間活動の跡が観察できる場所をジオサイトに認定している。ところが歴史の波のなかでは、本来ならジオサイトになるはずだった場所が人間活動や災害により破壊されるということも当然のように繰り返されてきた。ここでは、「失われたジオサイト」として今では見ることのできない箇所を写真とともに紹介していた。

 長泉町にあった屏風岩は、写真を見る限り富士山から流れた三島溶岩の露出であると思われるが、河川の護岸工事により失われたという。伊豆市の万城の滝もまた、柱状節理が発達した滝であったが、崩壊の運命を阻止するために柱状節理の割れをモルタルで埋める人工的な修復をしてしまった。そのため自然遺産としてのジオサイトとはいえない状況になってしまったという。(現)三島駅の北口にある三島風穴は三島溶岩の洞窟であるが再開発工事で出入りできなくなったということだ。

 受付の職員さんは非常に丁寧な案内をしてくれて、片手では持ち切れないほどのパンフレットを頂いた。下土狩駅付近のジオサイトへの地図も頂いて、それに従って街を歩いていくことにした。

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