溶岩と生きる町 静岡県長泉町・清水町 #2

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 鮎壺の滝は下土狩駅のすぐ近くにある。黄瀬川沿いに広場があって、流れ落ちる水の轟々とした音が聞こえる。広場はこのとき整備工事中で、関係車両が多く止まっていた。そこの脇にある道を下りたところに、多角形に割れた溶岩の岩床が現れる。その岩床は端で切れ落ちて、岩の狭い隙間に束ねられた水流は放物弧を描きつつ崖下へとなだれ込む。

 少し下流につり橋があって、その上からこの滝の全貌がひとめにわかる。晴れていたら富士山を背景とする向きであるが、まだまだ厚い雲が残っている。黄瀬川の傍には背の高いマンションなどもあって、街の中にある滝であることを印象付ける。

 1万年ほど前に富士山から噴き出した溶岩はいまの黄瀬川の谷に沿う形で流れ出し、長泉町や三島市の付近で止まった。鮎壺の滝はこの終端点のひとつで、岩床の上面に現れた多角形は溶岩に多く見られる節理だろう。崖をなす溶岩の岩床の下は空洞になっていて、ジオガイドの案内で入れることもあるらしい。ここには古富士火山が噴出した火山灰などが堆積した愛鷹ローム層が最初にあって、その上に三島溶岩が流れた。黄瀬川の流れは愛鷹ローム層を選択的に侵食し、この空洞が生まれたということだ。空洞の上面には、溶岩流に巻き込まれた樹木の跡が空隙として残っているという。

 割狐塚稲荷神社もまた三島溶岩の上に立つジオサイトである。雨上がりの境内で子供たちが自転車を止めて、みんなで縄跳びをしていた。どこにでもある、地域の子供が遊び場にするような普通の神社に見えるが、鳥居の列をくぐったところに現れるのは巨大な黒々とした岩の丘である。三島溶岩は流れつつも徐々に冷え固まり速度を失っていったが、いよいよその終端では、最前線の溶岩が固まって停止した。そこに後続の溶岩が押し寄せて収束し、こんもりとした丘状の岩塊が形成された。加えて、外側の溶岩はその内側にまだ熱い溶岩を包んだまま早く冷えるので、結局割れてしまう。割狐塚というこの溶岩の丘にはそこらじゅうにひび割れが入っている。そこで時が止まったようにして、丘は1万年後の今もここにある。

 この悠久の岩塊の頂上には赤い祠が祀られていて、そこにお参りする。大きな何本もの樹木が割狐塚に寄生するかのように、その根を岩肌に絡みつかせている。複雑に入った節理はときどきその深淵を覗いてみよと誘惑する。この隙間から狐が飛び出すという言い伝えがあるらしい。樹叢に囲まれて少し薄暗い境内では、ほんとうに狐がその身をどこかに隠しているかもしれないように思えた。

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