溶岩と生きる町 静岡県長泉町・清水町 #3

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 バスを乗り継いで清水町の柿田川公園に来た。富士山への降水は古富士火山の溶岩層と三島溶岩、あるいは火砕流の堆積物の層との境界を通ってここに湧き出し、全長わずか1.2kmの柿田川を成して狩野川へと流れ込んでいる。公園の一帯は整備された緑地になっていて、散策路に沿って水辺を見ながら逍遥することができる。水質が極めてすぐれていることで知られている。

 湧水地を眺める展望台に立つ。日没が近づくにつれて天気が回復してきて、淡くも木漏れ日が差し込みはじめた。杜に囲まれた柿田川の水面は僅かな振幅のさざ波が寄せるだけで静かだ。しかし目を凝らせば水底からふつふつと水が湧き、巻き上げられた砂がもやもやと対流していることがわかる。

 そこから三島広小路の宿まで歩いて行く途中には、同じく溶岩や火砕流堆積物の下を経て湧き出る水のため池・丸池がある。ここも公園になっていて、池を縁取るように植えられた桜の木々はわずかに花を残して若葉を芽吹かせている。ついに晴れてきた。大きな長方形の水面は、西日を浅い角度で受けてそれを乱反射する。水の透明と薄雲越しの白い光と若葉の緑とが公園の空間を支配していた。ここが住宅地や国道1号線のほど近くにあることすら忘れそうになるが、時折犬の散歩をする住民の方とすれ違い、地域に溶け込む公園でもあることを知る。伊豆半島ジオパークの説明板によれば地域住民や行政・NPO法人などの協力で水辺環境が守られているという。

 同じ緑地公園には境川が流れる。伊豆国と駿河国の国境となっていた川ではあるが、小さい川に見える。しかし清浄な水を安定して供給している。この境川・清住緑地の内部にも水が湧き出す場所が多くあるらしい。いまでは周囲のほとんどは住宅地であるが、かつては豊富な湧水が潤す田畑が国境を跨いで広がっていたのだろう。各所の水が豊かに流れるさまを見ているとそうした想像が目に浮かんだ。

 駿東郡長泉町と清水町を歩いた。この旅に来るまで2つの町のことをあまり知らなかったが、そこには三島溶岩と水がもたらす多種多様なものを見た。そしてそれを大切にする現代の人々の影を見た。ここでは地質遺産が市民の生活圏にあって、生活の中にジオサイトが溶け込むように存在している。

(終)