西美濃サイクルツーリズム 岐阜県池田町・揖斐川町 #2

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 火の見櫓に神社と、池田町・美濃本郷の街を横目に見ながらまっすぐな県道に出る。少しだけこの平坦な道を走り、右に見えてくるスロープで小さな川の河川敷に上がれば、一気に景色が変わってくる。桜並木の坂道の左手には茶畑が現れ、坂を上る必死さからふと目を覚ませば背後には広大な濃尾平野が果てしなく続いている。鉄道で通り過ぎてきた、池田町や神戸町の街並みや田園はすでに小さくなっている。さらには本巣や大垣が見える。さらにその先の岐阜市、あるいは愛知県まで見えているだろうか。天気は曇りで、高層雲が全天を覆っていた。この池田山に端を発する小川の周辺が香間ヶ渓で、池田町屈指の桜の名所となっている。ここから池田山麓の斜面いっぱいに、揖斐茶の茶畑が広がる。

 池田ふれあい街道という道路がそれを横切るように延びている。この道はアップダウンが激しく、ところどころに斜度10%に迫る坂がある。できるだけ心拍数を乱したくはなかったのだけれど、それでも茶畑と平野の大展望が次々と現れるたびに脚を止めるほかはなかった。坂を駆け上っては、うねり来る波のように緑麗しき一面の茶畑がやってくる。空を飛ぶがごとくの心地がした。

 林に囲まれた下り坂のカーブを経ると、喫茶店のおばちゃんから名前が出ていた大津谷のキャンプ場を通過する。また小さな林を過ぎれば再び茶畑が広がり、製茶工場などもあり、相変わらず見晴らしがよい。このあたりから徐々に平地へと降りて、濃尾平野の内部へと一旦入っていく。粕川、揖斐川を越えた。どちらも川幅広くゆったり穏やかに流れていて、水の色も清らかだった。

 巡礼の聖地として知られる揖斐川町・谷汲を目指してひたすら走れば、いつしか周囲に建物がなくなり、完全な農地に囲まれたまっすぐな道に出ていた。濃尾平野の端っこの山並みまで広がる地平の真ん中にいるようだった。その端っこに向かってただ無心のマイペースでペダルを回すことができる。

 遮るものがないから広く感じたが、実際は濃尾平野の端っこまで2kmくらいしかない。これからひとつトンネルを越えて谷汲に向かうが、その前に休憩を挟んだ。揖斐川町周辺で収穫される日本茶をその場で味わうことのできるカフェがあり、抹茶のスイーツなども味わうことができる。揖斐茶のフローズンは、下層の抹茶の緑から上層のミルクの白へと成層する見た目のグラデーションが美しい。濃く香り高い抹茶の味がだんだんまろやかなミルクに溶けていく。私は自転車で駆け抜けた揖斐茶の畑の風景、そしてこの抹茶の香り高さが帰ってからも忘れられず、やがて最低限の茶器を買い、自分でお茶を沸かして飲むようになった。こうして自転車から垣間見た風景がなければそうなってはいなかっただろう。

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