M8.0の痕跡を訪ねて根尾谷へ 岐阜県本巣市

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 眼下には清流・根尾川がゆったりと流れ、その真ん中には釣り人が足を浸して鮎を釣っている。夏を越して深緑を極めた山々と相まってとても涼やかな車窓だった。いい時期に樽見鉄道に乗ることができた。車両は根尾谷の奥へとさらに進み、浅瀬だった根尾川は、やがて岩々しい川岸を持つ渓流の様相を呈し始める。蛇行する根尾川を何度も橋梁で超えていく。そのたびに、進行方向の右へ左へと、渓流の見える車窓のサイドが目まぐるしく交代する。

 根尾谷断層の資料館がある水鳥駅を通り過ぎて、終点の樽見駅まで乗った。扇形の小さい駅舎を見ながら、自転車をセットする。樽見鉄道の沿線を10kmほどサイクリングして、その復路に根尾谷断層が保存されている断層地震観察館へと向かう。

 樽見駅前の広場を出て走り出したそのときだった。山肌から聞き慣れない甲高いわめき声が聞こえて、自転車を停めて振り返ったその瞬間、山から2匹のニホンザルが喧嘩しながら飛び出してきて、こちらに気付くや否やすぐさま山に戻っていった。

 実は樽見鉄道の終点樽見駅からさらに北上すると、わずか10kmも行かないくらいで集落がなくなる。道は国道157号線として福井県までつながっているが、県境近くの集落は無住となったところが多いようだ。国道157号線自体もいわゆる「酷道」らしく、ロードバイクでここを越えて福井県に行った人のブログ(https://tamaism.com/2020-06-10-183351)はスリル満点で読み応えがある。ともかく、樽見鉄道に乗ると大垣駅から一本でここまで山深いところに辿り着けるのだ。

 樽見鉄道樽見線は、交通の要衝として栄える大垣を始点に、濃尾平野の農業景観を抜けて、さらには短い距離で劇的に変化する根尾谷を駆け抜ける。車窓のストーリーに富んだ路線であった。

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