M8.0の痕跡を訪ねて根尾谷へ 岐阜県本巣市

かぼちゃの曲率トップ>旅行記>このページ

前のページ

 今回の旅は輪行であり、この身ひとつの鉄道の旅のときのように途中下車を繰り返すわけにはいかない。輪行袋から自転車を取り出したり、逆に自転車を袋に入れたりするのは折りたたみ自転車と言えども割と労力が要る。泊りで自転車を持ち込んで旅をしたのは今回が初の試みだったが、思っていたほど身軽ではないのだった。そこで代わりに、自転車でサイクリングを楽しみながら、樽見鉄道の他の駅も見ていく。

 樽見駅から南下する。いきなり少し急な坂を超え、根尾川に架かる開運橋を渡ると、水鳥の集落がある。ゆるやかな下りになっているが、ここが濃尾地震で地表に現れた変位であり、サイドの田畑にはより明瞭な段差がある。道路脇には目的地の地震断層観察館があるが、走り出したばかりなので一旦素通りしてサイクリングを続けよう。

 高尾駅は、緑に囲まれた盛り土の上の小さな駅だが、線路脇の桜の樹勢が素晴らしくて目を引く。駅を出てすぐのところには高尾神社があり、自転車を降りて頭を下げた。

 国道157号線ではなく県道を走っている。ほとんど対向車がいないほどには静かだが、幼稚園の前を通りかかったときは賑やかな声が聞こえてきた。また、ときどきロードバイクやクロスバイクに乗る人とすれ違い、お互い挨拶をした。根尾谷はサイクリングコースとして人気のようだ。満々と水を湛える中部電力の金原ダムを境として、根尾川の表情はまた変わっている。

 旧国道157号線と思われる道路に入って日当駅を目指したが、この道は荒れていた。道には杉の葉が散乱しているが、それだけではなく落石の破片などもたくさん落ちていて、パンクしないようにかなり気を使った。舗装もひび割れなどが目立つ。国道157号線の本巣市周辺の区間の愛称である、「薄墨街道」を示す看板がこの道にもあったことから、国道157号線に日当平野トンネルが開通したことにより国道指定を外された道とみられる。

 この荒れた道で、スピードをできるだけ落として恐る恐る下りのコーナーを曲がったとき、先の道に何か動くものがたくさんいるのに気付いた。猿の群れだ! 10匹ほどはいただろう。猿たちもタイヤの音に気付いたのか、一匹は手に持っていた木の実をうち捨て、また一匹は鳴き声を上げて、道横の山林へと散り散りに逃げて行った。自転車で良かった。徒歩だと自分が襲われていたかもしれない。

 日当駅は根尾川の蛇行が最も激しい区間にある駅である。そのため、集落は南向きの段丘面に形成されていて、それで「ひなた」という名前になったのかもしれない。この駅は谷汲口駅などと並んで、樽見鉄道を代表する桜のきれいな駅であり、路線の名所となっている。地元の方々が駅の手入れを欠かさないようで、ホームには色鮮やかな花々が揺れる。

 日当駅で折り返して再び樽見方面に向かうが、もう国道の旧道は通らない。県道を通って地震断層観察館へと向かう。薄暗い道を少しずつ上っていくと、急に視界が開け、目前には棚田が広がった。根尾谷にはあまり水田などないというイメージがあったので意外な景色だった。しかし、地理院地図などを見てみると、小さな支流に伴って段丘面や扇状地が形成された場所は多い。そのような土地を有効活用し、小規模ながらも農業がおこなわれているようだ。徒歩や自転車で動き回れば、このようにして土地の意外な一面に出会うことができる。

 復路は上り基調なので走り応えがある。高尾駅を通り過ぎ、水鳥にある地震断層観察館へと再び辿り着いた。

次のページ