ガイドブックのある旅 和歌山県田辺市

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 この日泊まった田辺市街のビジネスホテルでは、ホテルを営む老夫婦ににこやかな歓迎を受けた。駅から浜へと続く通りも夜になるとしんと静まり穏やかだ。

 夜が明けて、扇ケ浜([1] p.10)に行った。水平線直上の大気の青は深く、海の色とも分かちがたい。海の近くの宿に泊まったとき、早朝に犬の散歩の地元住民などに交じって静かな砂浜を歩くのは、いつも気持ちがいい。

 紀伊田辺駅の裏(北)側もあまり行ったことがないエリアだが、ここには古刹・高山寺がある。大師通りを抜けて橋を渡ったところに門があり、そこから鬱蒼とした参道の石段を登り切れば、江戸時代に建立された仏塔や赤く映える本堂がある。また南方熊楠、そして合気道の開祖・植芝盛平という2人の田辺市の偉人がここの墓所で眠る。寺はもうすぐ何らかの周年記念を迎えるらしく、塔の前では地元の人々が多く集まって高いのぼりを立てていた。参道には、「田辺のたのしみ」で紹介されるまるせん蒲鉾店([1] p.38)もある。少し胃の調子が良くないので今回は残念ながらパスしたが、次に来たときはここの平天を食べてみたい。

 高山寺からまた歩いて田辺の城下町に戻ってきた。「田辺のたのしみ」がきっかけで、とても食べたいと思っていた銘菓がある。駅前の商店街に店を構える和菓子屋「鈴屋菓子店」([1] p.70)が販売するデラックスケーキは、本の著者・甲斐氏が田辺を初めて知り訪れる機会となった重要な菓子である。それだけに、鈴屋菓子店を紹介するページには文字に染み渡る熱量がある。職人の手で丁寧な正方形に切りそろえられた白いケーキが積み上げられる写真、そしてモダンなデザインの銀紙で包装されたケーキの佇まいには、初めて見る者をも惹き付ける不思議な魅力がある

 店の前まで来たとき、「ああ、ここかあ!」と合点がいった。ここには昔来たことがある。デラックスケーキも食べたことはあっただろうか? このあと実家にも寄るので、お土産として家族の分もデラックスケーキを買った。店頭でしか買えない、製造過程で切り落とされた部分を集めた「はしっ子」も購入した。

 そして、紺屋町の小さなスーパーでは、平山製菓([1] p.80)の「バナナまんじゅう」もあった。鈴焼の製造工程を捉えた写真からは、使い込まれた型で焼かれた鈴焼の素朴でやさしい食感と甘さが想像される。バナナまんじゅうは、白あんをバナナオイル入りのカステラ生地で包んで焼いた菓子で、3個入りの袋を手に持つと重量感があった。ところが、食べてみると重さはなく、やさしいバナナの風味が広がる。

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