富士山を見に行く 静岡県富士市・富士宮市 #3

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 芝川の豊かな流量が玄武岩質の巨礫に轟々とぶつかっては泡沫を飛び散らせ、迂回しようとする水の流れは狭隘な礫と礫の隙間で合流してまた速さを増す。この川の上に架かるきれいな木製のつり橋の向こうには土産物屋さんが多数建ち並んでいて、白糸の滝の周囲は非常によく整備された観光地に見える。

 実際、平日であったが日本人・外国人を問わず観光客が多かった。ここにあるもう一つの滝である音止の滝などは、その全体像が眺められる角度の良い地点が少なく、何人かの行列のあとに続かなければ見ることが難しい。展望所のフェンス沿いから背伸びしてやっと見ることができた音止の滝では、誰かが大きな円筒形の型抜きでくりぬいたかのような均整の取れた滝つぼに芝川が豪快に流れ出す。その円筒の側面の黒さは、古富士火山から流れ来たものにより形成された土地の来歴を物語っている。

 駐車場などがあるところから階段を下りていくと、新緑に囲まれた空間に一面の白いカーテンを引いたような白糸の滝がそこにある。黒い古富士泥流の層は高さ20mほどにもなる断崖になり、その上にはそれより少し白っぽい新富士火山(富士山)の溶岩流(白糸溶岩流)が乗っかっている。この2つの層の間から、何本のもたおやかな滝が流れ落ち、その微細なしぶきが肌に付いて涼しい。白糸溶岩流は柱状節理のようになっている部分もある。これだけの厚さになる古富士泥流を生み出した古富士火山、そしてそれを溶岩で覆いつくした富士山と、巨大な火山の活動がこうした美しい風景を生み出している。そのこと、そしてその風景の現地に自分が在ることにとても素朴な感動を覚えた。

 源頼朝が鬢(びん)を直すための鏡として使ったという湧き水が「お鬢水」である。白糸の滝の上のひっそりとした森の茂みにあるこの湧き水は、清らな水を満々と湛えている。その湧出は穏やかなのであろう、伝説の通り、その水面は乱れることなく木々の間隙に差す光を反射している。

 白糸の滝と富士山を一枚の画角に収める展望所では、別々の外国人観光客のグループがお互いに写真を撮ってあげるなどしていて、協力してそれぞれの観光を謳歌していた。私はひっそりと白糸の滝を離れ、北西の向きに歩いて行った。今回の旅のテーマは富士山の作り出した風景だけではない。富士宮市の西側を固める天守山地は、伊豆半島が本州に衝突し本州を圧縮する応力により生じたという。その前面の富士川河口断層帯は、伊豆半島と本州のプレート衝突の境界であると考えられ[1]、この白糸の滝の付近は富士山の火山活動と伊豆半島の衝突による造構作用という2つの地球科学的テーマを感じて歩くのにちょうどよかったのだ。こうして、富士宮市の地質学的な経歴に思いを馳せる散歩が始まった。

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